2015年12月8日(火)
ヴェルト紙Die Welt クリストフ・B.シュリッツ記者、アンドレ・タウバー記者
シュルツさん、先日ルクセンブルクのジャン・アッセルボルン外相は欧州連合が崩壊すると警鐘を鳴らしました。これは誇張でしょうか?
−私たちを離れ離れにしようとする力がEU内で働いています。これは阻止せねばなりません。なぜならそうなれば甚大な結果になるからです。欧州連合は危機にあります。現在のようなEUが10年後も存続しているか、誰にも予測できません。もしそれを望むならば、私たちはそのために一生懸命闘う必要があります。
このように込み入った組織となったEUをそもそも後戻りさせることなどできるのでしょうか?
−欧州連合は代案がないというわけではありません。後退させることはもちろん可能です。しかしそれはナショナリズムの欧州であり、国境と壁の欧州を意味します。これは破壊的な結果をもたらします。なぜならそうしたヨーロッパは過去に私たちの大陸をたびたび破滅へと導いたからです。
欧州連合の維持のためにさらなる尽力が必要だと?
−その通りです。しかし私たちが今経験しているのは、多くの加盟国政府が当初欧州連合への主権移譲に承認を与えたのに、今度は手のひらをかえすように国家主権への介入を批判し、EUの共同対処を阻止しようとするという事態です。そして同じ人々がまた、直面している問題を解決できないとEUを非難している。EUの悪いイメージが生まれるのも不思議ではありません。
具体的には何を指していらっしゃいますか?
−現在、力不足を露呈しているのは欧州連合ではなく、EU加盟国です。加盟国が無力なのです。数ヶ国の大臣が、わが国は国境を自ら守ると宣言する際、忘れているのはその国境が場合によっては欧州連合の外部国境でもあるということです。多くの加盟国政府の国家的思考パターンは致命的です。どの国も一国だけで移民や気候変動、テロ、貿易、国際犯罪などの問題に対処することはできません。EUとして、力を合わせてこそ解決できるのです。
メルケル首相は難民問題でそもそも明確な計画に沿って対応しているとお感じですか?
−メルケル首相とジグマー・ガーブリエル副首相は、難民問題に欧州が共同で対応し、ドイツ、スウェーデン、オーストリア、イタリアらが孤立しないよう努力をしています。私はこの路線を正しいと考えます。
ドイツは目下支援なく孤立しているのではないでしょうか?
−いいえ、しかしEUの中には「ドイツはユーロ危機でいつも自分たちの方がうまくやれると言ってきた。それなら今度はひとりで難民問題を解決してもらおう」と考えている国もあります。これはもちろん大きな誤りです。
ドイツが他の7ヶ国と40万人のトルコからの難民受け入れを議論している間、他の国は身を潜めているように見えます。それどころか、ハンガリーとスロヴァキアはすでに決まった受け入れ分担に異議を申し立てました。
−EU条約は、他の国が反対した場合、EU全体ではなく数ヶ国が先行して協力関係を深めることを認めています。私はこれも正しいと考えています。しかし残念ながら、いくつかの国は責任を逃れ、自分たちのために何かしてもらう時だけに「連帯」を主張し、またそれを押し通していますが、自らが援助の手を差し伸べる時には「連帯」を拒んでいる状況です。忘れてはならないのは、難民問題で大きな負担を担っている国は、EU予算に最も多く拠出している国々なのです。来年、数ヶ年のEU予算計画の再検討が始まりますが、今後二三年のEU予算の優先順位について集中的な議論を行うことになるでしょう。
ドイツは負担の限界に来ていると主張する声も多いですが。
−ドイツは強く豊かな国で、難民問題を解決できる力を持っています。それは国民の間に信じがたいほどの熱意と強い支援姿勢があることが一番の理由です。しかし自治体は確かに負担の限界に来ています。この点で私たちは実務的な解決策を見出す必要があります。残念ながらドイツも難民への対応では常に効果的に対応できているというわけではありません。
どうしてでしょうか?
−州や自治体の訴えにもかかわらず、トーマス・デメジエール内相は行政規則を実行に移し、難民申請を速やかに処理できるような措置を数年間怠ってきました。内相は連邦政府の決定事項をもういい加減に実施しなければなりません。そうすれば事態も好転するでしょう。
多くの人々は、難民受け入れには上限も設けねばならないというシグナルをメルケル首相に求めています。ご理解できますか?
−難民の上限をめぐる議論では事態の改善は望めません。上限を100万人と設定して、100万1人目の子供が来たらどうしますか?子供を追い返し、「ごめん、もう100万人に達したから帰ってもらわなきゃいけない。たとえ身体や生命の危険が迫っていても」と言いますか?はっきりしているのは、私たちがEUの外部国境の管理を改善せねばならないということです。これは私たちの共通の課題です。EU内に壁や国境柵を築くことはあってはなりません。これは私たちすべてにとって害となるばかりか、役に立ちません。
どうしてでしょう?
−いわゆるイスラム国やアサドの樽爆弾から逃れて来る人々を柵の前で止めることはできません。彼らは命がけで逃れて来たのです。いざとなったら別の迂回路を見つけるだけです。
しかし私たちは誰でもヨーロッパに受け入れるというわけにはいきません。
−その通りです。現在こちらに来る難民の大多数はアレッポからのシリア難民ではなく、アフガニスタンからの若者です。彼らが逃れて来る動機は理解できます。しかし一方でドイツ国防軍のアフガニスタン駐留を続けながら、同時に若いアフガニスタン人を受け入れるなどということはとても是認できないでしょう。同じことはパキスタンにも当てはまります。これらの国々からの人々に対する審査手続きは速やかに行われねばなりません。そして本国送還を徹底する必要があります。
ドイツは難民発生の原因を解決するために一層の財政貢献が必要なのでしょうか?
−ドイツだけでなく、すべてのEU加盟国が一層の貢献を行わねばなりません。しかし残念ながらいつも同じパターンです。首脳会議が開かれ、決定が下され、資金が約束される。しかし結局のところ誰も約束を守らず、誰も資金を送らない。こうした恥ずかしい茶番はすぐにやめねばなりません。難民の発生原因を解決しない限り、この問題の解決には至らないことは、皆がわかっているのですから。もちろんそれにはお金がかかりますし、強い政治的なエネルギーも必要で、一朝一夕には行きません。しかし私たちには資金があります。2016年には加盟国のEU拠出金は94億ユーロ減額されます。つまりお金はあるのです。で、加盟国は何をしているのというのでしょう?減額分の一部をシリア隣国の難民収容施設に支出する代わりに、国の予算に繰り入れようと計画しているのです。これでは長期的には立ち行きません。
原題:“Die EU ist in Gefahr“